高鳴る鼓動を抑え、深呼吸をしてからバーに入ると、珍しく若い女の客がひとりもいなかった。
そういえば、ここ最近女とヤる回数がめっきり減ったって聞いたな。
さすがに危機感を持てと上からお灸を据えられたとか?
以前私が座っていたカウンターでひとり呑んでいた荒瀬絆は、少しやつれて痩せたように感じた。
足早に近づき、意を決して琥珀はその男の横に立った。
すると彼はグラスを持っていた手を止め、足先から徐々に視線を上に向けた。
そして私の顔を見ると明らかに顔色を変えた。
「お前……!」
目を大きく開いたのもつかの間、彼は非常に強い力で手首を掴んできた。
「いっ……」
「この近辺に『夢』という名で働いている人間はどこにも該当しなかった。
なぜ嘘をついて俺から逃げたくせに再び近づいてきた!
お前はいったい何者だ!?なぜ今更ここに!」
怒りの感情を顕にした彼に余裕はない。
……失敗だったかな。
強い握力に思わず顔を歪めた時、バーカウンターの向こう側にいた店主がグラスを拭きながらおだやかな口調で語りかけてきた。