惚れたら最後。

「手紙にさ、こう書いてあったんだよ。
『琥珀はあたしの形見だから幸せにしてやってくれ』って。
なあ、若頭。まさかとは思うが今後、琥珀を裏切るような真似をしたらその時はありとあらゆる手を使って荒瀬を潰す。覚悟しておくんだな」



今までのひょうきんな男とは別人と感じるくらいの殺意を込めた鋭い目。

絆は何も言わずただ深くうなずいた。

その仕草を見た拓海さんは口元を綻ばせさっさと部屋を出た。





「……今日は脅されてばかりだな」



絆はため息混じりにぽつりと呟いた。



「ごめんね、ほとんど私のせい」

「謝ることはねえよ。いろいろ面食らったが、その分納得できた」

「そっか」

「てか拓海さん、俺に正体バラして大丈夫かよ。あの人この病院の副院長代理だよな」

「もし他言したら、絆は二度とシャバに出られなくなると思うよ。
情報屋がリスクだけ背負うわけが無い」

「……なんらかの弱みを握ってるってことか。
どっちにしても悪い人じゃなさそうだから別にいいけど」



絆は脱力するようにベッドのそばの椅子に座る。

するも息をつくヒマもなくブーッとポケットに入れたスマホが鳴った。

絆は面倒くさそうにそれを取り出し画面を見て「母さんだ」と驚いたような顔で通話を始めた。



「うん……え?琥珀に会いたい?顔面怪我してるから誰にも会いたくないって。
うん、結構深い、唇3針塗って倍ぐらいに腫れてる。前歯も殴られて抜けた」



どうやら壱華さんが心配して会いたがっているらしい。

優しさが心に染みたけど、醜い姿をしているため誰にも会いたくない。



「俺がついてるから大丈夫。腫れが引いたら見舞いに来てやってくれよ。
なにせ傷に当たるからって今日はマスクもできねえみたいでさ。
それまで流星と星奈を頼む……うん、ありがとう」



通話を終えると向き直り、絆はなぜか満面の笑みを浮かべた。