惚れたら最後。

母さんが部屋の外に出ると、理叶さんは一瞬俺と目を合わせてから話し始めた。

それは先ほど琥珀に向けられた目だった。



「少し気になったのですが、あの女……間違いなく裏社会の人間でしょう。
俺の探りを受けて気丈に振る舞えるなんて普通じゃない。
相当頭が回るとみた、あんな危険因子、放っておいて大丈夫なんですか?」



嫌な予感はしていたが、琥珀の本性に勘づかれて思いっきり顔をしかめた。

危険因子は問答無用で排除するタイプの男だから、どう切り抜けるべきかと頭を悩ませた。



「うるせえサイコ野郎。てめえには関係ねえだろうが」



しかし、予想外にも親父が反論したので驚いた。

理叶さんはまさか組長から直接反論されるとは思っていなかったのか、意表を突かれて目をまん丸にした。



「アッハッハ!俺の性格が歪んだのは半分あなたのおかげでもありますけどね?」

「あ?」



口を大きく開けて楽しそうに笑う理叶さんは、あろうことか親父を挑発した。

仲悪すぎだろふたりとも……俺と刹那でもここまで険悪にならねえのに。

今にもドンパチ始まりそうな雰囲気だ。




「バカ、やめろって理叶!
あーもう!尖りすぎだっての、ラチあかねえ」



ビリッと張り詰めた空気の中、理叶さんから向かって右側に座っていた男が口を開いた。

瞬く間に室内の雰囲気を変えたこの男は───潮崎組若頭、林 光冴(はやしこうが)

シャープな印象で中性的な理叶さんとは対照的に、濃い顔の男前で明朗快活な男だ。

彼は理叶さんとは同い年で、若頭として長年連れ添ってきたらしい。



「すみません、ウチの理叶がシャバに出て早々失礼な真似を……たぶん浮かれてるんだと思います」

「知るかこいつの考えてる事なんざ。
んなことより俺はてめえが一番の常識人になったことに驚きだ」



理叶さんとともに、昔“やらかした”らしいが、なぜか最近になって親父から信頼を得ていた。

親父が目を見て話すのがその証拠だ。

例えばずる賢く人を取り込もうとする刹那とは違い、直球で勝負できるタイプの光冴さんの性格は嫌いではないらしい。