惚れたら最後。

……確かに旧名は神木だったけど、婿入りして名字変わったんだっけ?



「いいえ、こちらこそすみません。
礼儀正しいお子さんですね。えらいぞボク」

「えへへ、ほめられちゃった」



アラフォーには見えない爽やかな印象のその男は、とても極道の権威(けんい)とは思えない。

網谷凛太郎はにこやかな表情ですれ違い、そのまま人混みに紛れていった。

……ひとりで来たとは思えない、あの男は荒瀬の重要人物だ。

もしかすると周りにほかの組員がいるの?



「……ママ、もう帰ろう」



表情には出ていないけど、私の異変に星奈が気がついた。



「ごめん、2人とも」

「いいよ、今の時代ネットがあるし!
もっと金ピカのやつ見つけるんだ」

「あんた金色にこだわりすぎじゃない!?
こだわりが強い男ってモテないのよ!」

「うるさい夜中寝ながらオナラしてたくせに!」

「ぶっ……アハハ!」

「もう……笑わないでよ。お姉ちゃん」

「ごめんごめん。
ふたりと一緒にいると幸せだなぁと思って。
ふふっ、ずっと一緒にいようね」

「あたりまえじゃん!」

「うん、ずっと3人で生きていこうね!」



そう、私たちはずっと3人で生きていくんだ。ほかの誰も必要ない。

この幸せ以外いらない──私はそのとき、本気でそう思っていた。

ましてや将来の伴侶なんて必要ない、恋愛なんてしなくていい。

それはあの夜、荒瀬絆に出会ってから変わりゆく自分の心を言い聞かせるための暗示のようなものだった。