惚れたら最後。

寒空の下、本家を出て憂雅が待機していた車に向かった。

琥珀は一定の距離を保ちながら俺の後ろをついて歩いた。



「おかえり、どうだった?っておい、琥珀顔真っ青じゃねえか」

「は?」



車内に入ると憂雅がギョッと顔をしたので振り返ると、琥珀の顔が真っ青になっていた。



「琥珀、どうした」



問いかけに返答はなく、静かに車に乗り込み座ると彼女はぼそりと呟いた。



「吐きそう」

「は?」

「緊張しすぎて吐きそう。ずっと我慢してたけどもう無理」



父を感心させた先ほどの強気な彼女はどこに行ったのか、車内でガタガタと震えていた。

相当の心労だったのだろうと琥珀の背中をそっとさすった。



「マジで!?この車俺のだから勘弁して!」

「だって、シャレにならないくらい怖かったたもん絆のお父さん。
あの気迫に殺されるかと思った。ぶっちゃけ極道のトップナメてた。
ヘビに睨まれたカエルってこんな気持ちなんだろうね」

「まあ、その気持ちは分かるけど。吐くのはやめてな?」



そう言ってポリ袋をを差し出した憂雅。

琥珀は震える手でそれを受け取ろうとしたがらそれを制止して代わりに力強く抱きしめた。

琥珀はビクッと身体を震わせたがすぐに俺の背中に腕を回した。

触れ合った身体から感じた激しい鼓動は、次第にだんだんと落ち着いていく。



「落ち着いた?」



ぱっと身体を離すと顔色がだいぶ良くなっていた。



「うん、ちょっとよくなった。ふう……」



ため息を吐いてもたれかかってきた琥珀。

もう大丈夫だろうと、憂雅に目配せして車を発進させるよう(うなが)した。

やがて進み出した車。洋楽が流れる車の中で音に合わせるようにポンポンと頭を撫でる。

1曲終わり車内に沈黙が広がると、琥珀の寝息が聞こえてきた。



「え、寝た?」

「寝たな……撮っておこう」



思わず後部座席を振り返った憂雅。

俺は悪びれもなくパシャ、とスマホで琥珀の寝顔を撮った。

すると憂雅は目を大きく開いて、それから失笑した。



「絆、お前最近ますますオヤジに似てきたぞ」

「ん?ああ」

「今撮ったやつロック画面に設定する気だろ」

「残念、ホーム画面だ」

「いやドヤ顔で見せてくんな」