惚れたら最後。

「大丈夫?壱華」




優しく声をかける姿に驚いた。

そして彼女の存在が組にとっていかに重要なものであるかを知った。

そんな大切な存在が傷つけられたと知れば、冗談抜きで東京湾に沈められるかもしれないと考えたその時、彼女と目が合った。



「平気。だってコハクちゃん、全然美花に似てないんだもの」



クスリと笑って語りかけてきたその瞳は再び輝きを取り戻した。



「外見じゃなくて、内面の話よ。
あの女は利己的で他人の気持ちなんてちっとも分からない人間だった。
だけどあなたはとても合理的だし献身的ね。
梟ほど有名な情報屋なら、荒瀬組以外にも大きな“取引先”はあるだろうし、わざわざ姿を見せるなんて馬鹿な真似しないはず。
あなた、本当に絆のこと好きなんだね」



彼女の口から発せられる鈴のような心地いい声は、私の心を揺さぶった。



「わたしはね、うまれつき、根っからの悪人がいるなんて信じてないんだ。
だからあの美花の子どもだとしてもなんとも思わない。
その子の性格は、大半は育ての親によって形成されるから」



私は動揺を隠せなかった。

『闇色のシンデレラ』は紛いもなく人格者だ。

優しさで包み込むような言葉を受けて、試すような真似をした自分の愚かさを悔いた。



「捨てられた、って言ったね。
あの女のことだろうから、子育てなんてできないだろうと思ってた。
きっとひどい目にあったでしょう、辛かったよね」



そう言うと、彼女は慈愛を込めて一層深く笑った。



「だけどこんなに素敵なお嬢さんに成長したんだもの。
あなたのいう育ての親は、さぞかし良心的な親御さんだったんでしょうね」



視界がぼやけ、脳裏に夢の笑顔が浮かんだ。

同時に張り詰めていた緊張が解かれ、我慢していた感情がこみあげた。

泣いてはいけないと下を向き、唇を噛んで涙をこらえた。



「絆を支えてあげてね。私はあなたの味方だから」

「はい……」




美貌に引けを取らない彼女の心の美しさに完敗した。

もう取り繕う必要はないと、あたたかい言葉に小さくうなずいた。