「今日は兄貴より壱華が待ちわびちゃってね。
服装はどうしようとか俺の嫁さんに聞いてた」



結局颯馬と憂雅のふたりに部屋まで案内されることになり、美形に囲まれ肩身の狭い思いをしながら、『狼の間』の前までやってきた。

噂通り洋風の狼が襖に描かれていて独特だな。

そう思った時、ふと目線の先で荒瀬颯馬と目が合わさった。



「やっと目が合ったね」

「……!」

「警戒してるね、コハクちゃん。緊張もあるのかな。
相手は極道のトップだから身構えちゃうと思うけど、兄貴はただ単に息子の彼女を見てみたかっただけみたいだから心配しなくていいよ」

「……お気遣い、ありがとうございます」



鋭い視線に思わず目を逸らしそうになったが、逆に怪しまれると思って笑顔を作り、真っ直ぐ彼の目を見つめた。

この男……侮れない。

さすが、若くして組長代理を務めているだけある。

これ以上余計なことを考えないようにしようと軽く息を吐いた。

すると不意に絆に腕を引かれ、よろめいて彼の胸に飛び込んだ。



「あまりいじめないでやってくれ」

「ごめんって絆、賢そうな子だから思わず試しちゃった。
憂雅、もういいよ」



いち早く私の異変に察した絆に抱きしめられ、少し落ち着いた。

笑って謝る荒瀬颯馬は憂雅さんに声をかけると、彼は襖に近づいて、よく通る声で語りかけた。




「入ります、憂雅です」




一声かけ、ゆっくりと開けられる襖。

やがて開け放された先に広がる空間を見て思わず息を飲んだ。