「……つまりは半グレが荒瀬組の内部崩壊を目論(もくろ)んでいると?
だとすれば主犯格は江戸川興業のトップ、池谷のせがれか」

「ああ、事態は思ったより根深いな。
池谷って野郎がどこに潜んでいるのか検討がつかない」

「とりあえず今は情報が漏洩しないよう、セキュリティの強化に努めるしかないな」

「そうだな」



凛兄はあいづちを打つと持ってきていたカバンから資料を取り出し渡した。

その際ニヤリと笑ったため、ふと手を止めた。



「ところで絆、なんかいいことあったか?」

「………別に。なんで?」

「いやぁ……雰囲気が、オヤジが壱華さんに会ったあとの感じだったからさ。
女でもできたのかと思って」



……は?なんで分かるんだよ、怖っ。

焦りを通り越しドン引きの俺に凛兄は笑った。



「俺、あのふたりのそばで伊達に20年過ごしてきたわけじゃないから分かるんだよ。
それにお前が産まれた時から世話してたし、隠しててもなんとなく感じる」



凛兄は朗らかな表情でそう話すと目を細めて笑みを深めた。



「最近ずいぶん思い詰めた感じだったが、ふとした時から吹っ切れたみたいでよかった。
何かあったら俺に言えよ?“凛兄ちゃん”はいつでもお前の味方だ」

「それ、自分で言ってて恥ずかしくねえのかよ」

「またまた〜、照れ隠ししちゃって。
さて、次は年末年始の宴会で会おう。その時また話聞かせてくれよ」



先ほどまでの仕事の顔はどこへやら、にこやかに手を振って去っていった。