使用人達の話から、自分の生まれた家のことを知ったが――戸惑いはしたが、同時に納得もした。母親達家族もだが、赤ん坊の自分が着ている服の、肌触りや仕立ての良さ。更に、抱っこして貰って見えた部屋の綺麗さに、オリヴィアは「パン屋にしては何かゴージャス?」と首を傾げていたのだ。

(パン屋の娘じゃなく、料理人のいる貴族令嬢に転生……んー、料理人さんってパンも作れるのかな? 奉納の儀のことを考えると、平民よりは貴族の方が良いのかも……でも、もし家でパンが作れないみたいなら、家を出てパン屋に弟子入りしよう)

 まだ一人で動き歩けないので、とりあえず料理人のことは後回しにして納得する。思っていたのと違うとは言え、生まれ変わった以上は今の環境で生きなければならない。

(まあ、いざとなれば我が家には跡取り息子もいるから、私が家を出ても大丈夫よね)

 まだ首が座っていないので実際には出来ないが、オリヴィアは内心でうんうんと頷いた。
 そんな彼女は生まれたばかりなので、気づけばすぐに寝てしまう。だから起きている今がチャンスとばかりに、母親はオリヴィアを抱っこしていた。そしてそんな母親の後を追ってきて、他の家族もオリヴィアが起きていることに気づいたようだ。 
 金髪に緑の瞳の美形と、同じく金髪に榛色の瞳をした天使のような男の子が、部屋に入ってきて母親に抱かれたオリヴィアの顔を覗き込んできた。

「ウーナ、私にもオリヴィアを抱かせておくれ」
「ええ、オーリン。そっとね?」
「母上、ぼくも!」
「エリオットは、もうちょっと大きくなるまで待ってちょうだいね?」
「えー?」

 まだ慣れないが、それこそ前世の妹より綺麗で可愛いこの面々が、前世の家族である。ただ兄のエリオットと双子などではない(エリオットは五歳くらいだろうか?)ので、オリヴィア一人が十人並みと言うのも十分、ありえることだ。

(ありえる、とは思うんだけど……)

 父親の腕の中で現世の家族の顔を見ていると、不意に三人の頬が笑みに緩む。

「本当、オリヴィアは可愛いわ」
「将来は、絶世の美女になること間違いないな」
「うん、可愛い」

 ……家族も、あとハンナを始めとする使用人達も皆、オリヴィアのことを可愛い可愛いと大絶賛するのである。単なる親の欲目なのか、赤ん坊だからなのか。それとも、遺伝子がとても良い仕事をしているのかは解らないが。

(でもなぁ……前世も、顔のパーツだけは愛と同じだったのに、地味だの嫌だの言われたから……この問題も、自分で自分の顔を見られるようになるまでは保留よね)

 とりあえず、鵜呑みにして調子に乗るのだけは駄目、絶対。
 嫌われないように、迷惑をかけない――は、今は無理だけど。ひっそり謙虚に生きようと、オリヴィアは固く心に誓った。