「とは言え、このケフィア粒からケフィアを作るには、まる一日かかります」
「「「「え」」」」
「美味しいだけじゃなく、体に良いものを作るのには時間が必要なの……でも! 常温で固まるし、ケフィアはそれだけで食べても美味しい……らしいけど! 飲み物にも出来るし、お菓子や料理に使ってもいいの!」

 オリヴィアの言葉に、当然だが一同から驚きの声が上がる。しかし、この工程は譲れない。
 一応、ケフィアの知識はヴァイスから教えて貰ったことになっているので、遅かった気はするがオリヴィアは微妙に言い直して力説した。そんな彼女の頭が、父・オーリンによって撫でられる。

「つい欲張ってしまったが、元々が昨日から一日かかっているし……魔法でも使わない限り、時間がかかるのは当たり前だ。明日の朝食を、楽しみにしよう」
「お父様……ありがとう! でも、ケフィア粒からケフィアを作ること自体は、簡単なのよ」

 そう言って、オリヴィアが「ヨナス、お願い」と続けると、ヨナスが頼まれて準備しておいた煮沸済のガラス瓶を出してくれた。中世ヨーロッパ風の世界だが、ワインや保存食を入れるのにガラス瓶は存在していた。容量としては、他にも使うので一リットルくらいの大きなものである。
 そこに、まずは完成したケフィア粒を入れる。
 次いでヨナスに頼んで、やはり用意しておいた牛乳をガラス瓶に入れる。

「以上! あとは直射日光が当たらない場所で、まる一日置くだけよ。完成したケフィアは、腸内環境を整えてくれるから健康は勿論、美肌にも効果があるわ」
「……本当に、簡単だね」
「美肌?」
「ええ、お母様! 即効性はないけど、毎日食べれば持続性は間違いないわ。あと、免疫力も上げるから、風邪もひかなくなるの」
「食べ物……なんだよね? 何だか、お薬みたいだね」

 驚いたり興味を持ったりしているのは両親で、感心したように言ったのは兄のエリオットである。そんな彼に答えたのは、オリヴィアではなくヴァイスだった。

「基本、美味しいものは体にいいんだ。とは言え、困った欠点は食べすぎることで……適量を超えれば、いくら体にいいものでも健康を害するんだ」
「そうなんですね」
「ああ! 脂肪と糖も美味しいけど、大量に食べると太ったりするからな」

 ヴァイスの言葉に、エリオットが納得したように頷く。それにドヤ顔で答えると、尻尾を振りながらヴァイスはヨナスを見上げて言った。

「そんな訳で! 今日はまず、オリヴィアの誕生日を祝おうな!」
「ええ! 腕を振るわせて頂きます!」

 そう言って力こぶを作ってみせたヨナスに、オリヴィアは頼もしさを感じ――その後の誕生日パーティーで振る舞われた料理やお菓子に、オリヴィア達家族は舌鼓を打つことになった。