そして次の日の朝、オリヴィアの誕生日が来た。
 ヴァイスの背に乗り、オリヴィアはパン窯へと向かった。その後を、いつものようにハンナ達数名のメイドが付いてくる。

「おはよう、オリヴィア」
「おはよう、いよいよね」
「楽しみだね!」

 パン窯のある部屋では父・オーリンと母・ウーナ、そして兄・エリオットが待ってくれていた。美形な家族は、朝からとても眩しいばかりである。

「おはよう! うん、すごく楽しみっ」

 ヴァイスの背中から降りながら、オリヴィアは笑顔で家族の皆に答えた。
 それからオリヴィアは少し背伸びをし、ノックをしながら中にいるヨナスへと声をかけた。

「ヨナス、おはよう!」
「来たぞ!」
「お嬢様、ヴァイス様! 今、開けますっ」

 オリヴィアとヴァイスの声に、ヨナスが答えてドアを開ける。それに促され、オリヴィア達がパン窯のある部屋へと入ると、ヨナスがドアにぶらさげてくれていた山羊の皮袋を差し出してきた。

「あ……」
「不思議なんですが……お嬢様、どうぞ確認して下さい」

 昨日は皮袋に山羊や牛の乳(今回は牛乳)を入れて一日、パン窯のある部屋のドアにぶら下げて貰った。ヨナスに渡した時は液体なので当然、入れた量以上の膨らみはなかったが――今、目の前にある皮袋はそのシルエットが少しだが変わっていた。
 前世に家でケフィアを作る時は、店で売られていた粉末状の物を使っていた。だから知識こそあるが、ミルクと酵母で作るケフィア粒を実際に見るのは初めてなのだ。

「ありがとう、ヨナス」

 お礼を言って受け取り、皮袋をそっと開ける。
 ……その視線の先、白いカリフラワーの小房のようなものを見て、オリヴィアはたまらず目を潤ませた。
 女神から生まれ変わりの話を聞いた時から、ずっとずっと作りたかったものだ。

(いいえ、これが終わりじゃないわ。ここから、始まりよ)

 そして、中に残った牛乳がこぼれないように気をつけながら、皮袋の中身をヴァイスや父達に見せた。

「やった……皆っ! ケフィア粒が無事、出来たわ!」
「うわ、本当だっ」
「これが、お嬢様が言っていた……おめでとうございます!」
「ありがとう! ケフィアを使って、飲み物とかヨーグル……新しいデザートとか、あと料理やお酒にも使えるの!」
「……本当に、何て不思議なんでしょう。無から有を作り出すなんて、これは女神様のご加護なのかしら?」

 喜ぶオリヴィアに、ヴァイスとヨナスも破顔した。
 一方、母のウーナが感心したように、そして呆然としたように呟く。チーズやバターがあるが、あれらはもっと攪拌する。だからドアの開閉で動くとは言え、ウーナから見るといきなり現れたように見えるのだろう。
 そんな母に、オリヴィアはニッと笑って答えたのだった。

「女神の加護? いいえ、ケフィアよ!」