こうしてオリヴィアとヴァイス、そしてネジェクリームとロールケーキのお披露目は無事、完了した。
 最初はやはり、大げさだと思ったが――その後、偽物というと言葉が悪いがホットケーキにジャムを挟んだ『聖獣様一押しのお菓子』や『令嬢が愛するケーキ』などが出たので、考えを改めるしかなかった。噂だけでこれなら、闇雲にレシピを教えたら悪用されてしまいそうだ。現に、例に挙げたお菓子はどれも高値で店に出され、しかも結構売れたらしい。
 ただ騙し騙されではなく、領主の娘が伝説の聖獣の加護を受けたことによる祝いの気持ちや好奇心からの行動で、そもそも本物だと思っていないのが不幸中の幸いだが。

辺境(ここ)だから、これくらいで済んでるんだな」
「あとくちコミが、おもったいじょうにすごいのね……がぞうやえいぞうがないから、いったものがちなのね」
「だなー。オリヴィアの母さんが言ったみたいに、まずはお茶会とかで本物を広めて、レシピはそれからだな」
「うん」

 そんな訳で、母・ウーナに言われた通り、オリヴィアとヴァイスはヨナスに頼んでネジェクリームとロールケーキを作って貰い、それをお茶会や個人的な来客に披露した。そして翌年の冬、満を持して公開されたレシピはそれなりの値段をつけたが、あっという間に売れたらしい。ちなみに購入層は、ヨナスのように貴族に仕える料理人や、貴族や平民でも商人など、富裕層向けの店をやっている料理人だそうだ。
 そしてレシピ公開後、オリヴィアは今度は卵と牛乳と砂糖を使う、カスタードを公表した。
 理由としては、牛乳を使うので広い意味では乳加工品であること。
 あとは――一緒に作りたいと思った、シュークリームとクリームパンに使いたかったからだ。

(元々、クリームパンってシュークリームの美味しさに感銘を受けた日本人が、パンに応用することを考えたのよね)

 それ故、まずネジェクリームも活かせるシュークリームからお披露目し、次いでレシピを公開したカスタードの更なる商品としてクリームパンを発表した。こちらも好評で結果、オリヴィアとヴァイスが何を提案しても問題ない環境が出来上がった。

「何か、仰々しいあだ名がついちゃったけどね」
「『女神の愛子(まなご)』なー。まあ、事実だけど」
「確かに、良くして貰ったけど……だからこそ、少しでもお返し出来るよう頑張らないと」
「ああ。いよいよ、オリヴィアが作りたかった『ケフィア』だな」
「うん。少しでも発酵しやすい時期ってことで、春まで待ったけどね」

 幼女だが、一応は女性だということでオリヴィアとヴァイスの寝室は別だ。とは言え、オリヴィアの部屋にはリビングや寝室、そして勉強部屋やクローゼットに浴室、トイレなどいくつかのスペースに分かれていて寝室は別だが、同じ部屋ではある。
 だから寝る前、オリヴィアとヴァイスはそれぞれの寝室に行く前に、リビングでその日あったことや、これからのことを話す。
 そんな中、オリヴィアは前世から、自分が作りたかったケフィア粒についてや、そのお礼に女神に乳加工品を奉納するのだと話していた。
 オリヴィアとヴァイスが会ってから、四年目の春。
 ヴァイスはすっかり大きくなり、オリヴィアを乗せて歩いたり、走ったり出来るようになった。けれど、そのクルクル動く金色の瞳は変わらない。

「今日、ヨナスに頼んだから……明日、パン窯に行くのが楽しみだな」

 そして床に伏せて椅子に座るオリヴィアの顔を覗き込み、ニッと目を細めたヴァイスにオリヴィアもまた笑って頷いた。

「うんっ」