オリヴィアはケフィア粒を作る為、信頼を得ようといわゆる料理チートを行った。
 図書館やインターネットで、ケフィアのことを勉強しているうちにオリヴィア、いや唯は他の乳製品についても知っていた。更に双子の妹である愛や両親が食べたがったので、スイーツやパンも作っていた。
 その結果、シャンティクリームとロールケーキを提案出来た訳だが、最初はヴァイスのことを知っている家族はともかく、他の者達に聖獣から教えて貰ったとして広めて良いのか。それこそ、ヨナスの考えたレシピにすれば良いのではないかとオリヴィアが言うと、当のヨナスに涙ながらに猛反対された。

「とんでもない! あのクリームと焼き菓子は、俺なんかには到底、思いつきません! それを、俺のレシピと偽るなんて……聖獣様とお嬢様が許しても、それこそ女神様が許しませんっ。天罰が下ります!」
「そ、そう……?」
「そうですっ」

 ヨナスの主張に困って家族を見ると、ヨナスに同意するようにうんうんと頷かれた。こうなると一般常識を知らないオリヴィアには反論出来ない。更に彼女の目的である『奉納の儀』開催を考えれば聖獣、つまり女神のお墨付きということにすればますます実現しやすくなるだろう。
 そう結論付けたオリヴィアとヴァイスを、両親は昼間にガーデンパーティーを開いて登場させた。本来、オリヴィアは人前に出る年齢ではないので冒頭だけの参加だが母に抱かれ、用意された椅子に腰かけると膝に乗ってきたヴァイスに手を添えて口を開いた。

「はじめまして、オリヴィアです。よろしくおねがいいたします」
「まあ」
「何て可愛らしい」

 たくさんの大人に緊張するが、三歳児なので忖度はせず、にっこり笑って挨拶をした。反応を見る限り、好印象だったようで内心、胸を撫で下ろす。
 一方、ヴァイスも貴族相手なのでいつもの調子ではなく、聖獣らしい口調で言った。

「しばし、辺境伯領(ここ)で厄介になる。令嬢からは『ヴァイス』の名を授かり、今後は女神の知恵を与えることとする」
「おぉ……」
「聖獣様が、令嬢と辺境伯領にご加護を」

 普段のヴァイスを知らない面々は澄まして話す白豹と、その喉とオリヴィアの手首に刻まれた花のような模様を見て、一同は驚いた。
 そしてネジェクリームを巻いたロールケーキを出すと「素晴らしい、これが女神の知恵」や「クリームもケーキも、こんなに滑らかでふんわりだなんて」などと感嘆の声を上げた。

「オリヴィア」
「ヴァイス」

 かなり大事になった気はするが、ひとまず喜んで貰えたようなので――オリヴィアは、膝に乗せたヴァイスの尻尾にこっそり手を当て、ハイタッチもどきをした。