オリヴィアは、ヴァイスと共に部屋へと運ばれた。そしてオリヴィアは長椅子に、ヴァイスはその足元の敷物の上に降ろされて、それぞれ出された飲み物を(オリヴィアには温かいココアを。ヴァイスには牛乳を)飲んだ。
 それからぷは、と互いに一息ついた後、おもむろに口を開いたのはヴァイスだった。

「オリヴィアは、獏ってどんな生き物か知ってるか?」
「……わるいゆめを、たべる?」
「間違ってないけど、正解じゃない。夢って言うのは、記憶を整理する過程で見るもので……だから獏が食べるのは、正確には悲しかったり辛かったりする記憶だ」
「きおく……」

 夢のメカニズムについて、ファンタジーな世界なのに、何だか前世の日本で聞くような話だと思った。しかし続けられた言葉に、オリヴィアはハッと息を呑んだ。

「……オリヴィアは『前世持ち』だろ?」
「っ!?」

 初めて聞く、けれど的確にオリヴィアのことを示した言葉。
 ギョッとしてヴァイスを見ると、パタパタと尻尾を揺らしながら話を続けてきた。

「たまに、異世界での記憶を持った子供が生まれるんだって。百年に一人か二人くらいだし、魔法とかじゃなくて前世の知識の提供くらいだから、人間はあんまり知らないと思う……俺ら幻獣は、寿命が長いから知ってるけど」
「そう、なの……ええ、ヴァイスのいうとおり、わたしはぜんせもちよ」 
「やっぱり……それでさ? 前世持ちは、辛い記憶を抱えてるのが多いから。獏としては、最高のごちそうでもある」
「……ごちそう?」

 説明されて、すごく納得出来たのでオリヴィアは素直に白状した。けれど、ヴァイスが話した内容には驚いて、ついつい繰り返してしまった。それに、ヴァイスがコクンと頷く。

「ああ。あ、言っとくけど獏が食べたからって、記憶喪失にはならないからな? ただ、その辛い記憶が頭とか、心を占める割合がかなり減る……だからさ? たまにでいいから俺に、オリヴィアの悪夢を食わせてくれないか?」
「えっ……ぎ、ぎゃくにいいの?」
「もちろん! あと、獏は女神の使いって言われてるから、俺が言ったことにして前世の知識を披露しても大丈夫!」
「ありがたいけど……本当に、いいの!?」
「ああ」

 心が軽くなると思えば、むしろ望むところである。更にヴァイスがいてくれたら、ケフィアや奉納の儀について断然、やりやすくなる。
 だから我知らず、オリヴィアが目を輝かせて尋ねると――金色の目を笑みに細めて、ヴァイスが頷いてくれた。

「俺こそ、極上の悪夢が食えるから、お互い様だ」