「……ハンナ。あのこ、てあてしないと」
「お嬢様……」
「おねがい」
「……解りました。屋敷に連れていきます。ただ吠えたり、噛んだりするようなら、男の使用人を呼びますね」
「ありがとう!」

 怪我がハンナも気になったのか、オリヴィアのお願いに頷いてくれた。とは言え、オリヴィアが近づくことは許してくれず、他の侍女達が抱き上げようと近づいた。

「ウゥ……」
「ハンナさん。誰か人を、呼んできます」

 だが、吠えこそしないが怪我をしている豹は低く唸って、侍女達が近づかないように威嚇した。その間も傷から血が流れているので、早く手当てをする為にと侍女の一人が屋敷へと走り去った。
 ハンナの腕からは出られない。しかし、少しでも警戒を解いて大人しくして欲しくて、オリヴィアは声をかけた。

「だいじょうぶよ。あなたを、きずつけたりしないわ」
「グルル……」

 唸りながらも、オリヴィアにその金色の瞳を向けたかと思うと――不意に、その目が軽く見開かれた。それから驚くオリヴィアの前で唸るのをやめて、その場にペタリと伏せる。

「わかってくれたの?」
「ガウ」
「ハンナ? なでていい?」
「え? あの……少々、お待ち下さいませ」
「ありがとう、ハンナ」

 伏せたまま、尻尾を振ってオリヴィアを待つ豹を見て、ハンナはオリヴィアを抱いたまま近づいた。すっかり大人しくはなったが万が一、何かあった時に逃げられるようにだろう。
 再び、願いを叶えてくれたハンナにお礼を言って、オリヴィアは豹へと手を伸ばした。

「だいじょうぶ、よ……っ!?」

 そして、安心させるように声をかけながら、オリヴィアが撫でた途端――見る間に傷が癒えていっただけでも、驚いたのだが。

「やった! カラスにやられて、どうしようかと思ったけど……おかげで、怪我が治った! 助けてくれて、ありがとうなっ」
「「「えっ!?」」」

 澄んだ少年の声で、豹が元気にお礼を言ってきたのに、オリヴィア達は驚いて声を上げた。