『話せる獣』には、二種類ある。
 まずは、亜人と呼ばれる存在だ。前世のライトノベルだと、人に獣耳や尻尾がついているくらいのイメージだったが、この世界は違う。そういう人もいるが、一方で前世の子供向けアニメで見たような、獣やトカゲの姿で立って服を着ている人達もいる。使用人達の中にもいるので、最初ハイハイしながら会った時には驚いた。あと、普段は人に近い姿をしていて、移動の時などにほぼ獣の姿になる場合もあるそうだ。
 そして、もう一種類は――幻獣と呼ばれる力のある獣は、話すことが出来るらしい。らしい、というのは滅多に人里に近づかないので、実際に話したことは勿論、見た者もほとんどいないからだ。

(家を出ることは、もうないだろうけど……貴族のお嬢様だと、そもそも遠くには出かけないだろうし。屋敷の近くに森はあるけど、一人で行くこともないし)

 だから、オリヴィアが幻獣と会うことはないだろう。
 ……そう結論付けた彼女は、自分がフラグを立てたことに気づいてはいなかった。



 五歳年上の兄・エリオットには、家庭教師がつくようになっていた。
 両親はそれぞれ仕事や、貴婦人としての交流がある為、昼間オリヴィアが一人になる時間が出来るようになり――彼女はまだ家庭教師がつくには早いので、絵本を読んだり庭で日向ぼっこするようになっていた。
 とは言え、勿論一人ではなくハンナ達侍女が傍にいて飲み物やお菓子をくれたり、うたた寝などしたら寝台まで運んでくれる。

「きれい……」

 そして晴れた今日、オリヴィアはハンナ達と庭に来ていた。子供なので丈は膝下だが流石、貴族令嬢なので普通にドレスを着ている。ちなみに今日は、春らしい黄色だ。  
 オリヴィアが住む辺境は、帝都より四季がはっきりしているらしい。冬の間は雪に埋もれていたが、春になった今では花や木々が色鮮やかだ。
 絵本を持ってきたが、しばらくはただそよ風にあたって、景色を眺めていよう。
 そうオリヴィアが思い、庭の東屋から視線を巡らせていると――ふと、ある一点で引っかかった。

(……あの茂み、何で揺れてるの?)

 首を傾げ、不自然に揺れている茂みを眺めていると、傍らに控えていたハンナもまたそんなオリヴィアと茂みに気づいた。

「お嬢様? ……失礼しますっ」

 そう声をかけて、いつでも逃げられるようにハンナがオリヴィアを抱き上げる。他の侍女達も立ち上がり、茂みを見つめていたが――現れたものを見て、戸惑った。

「猫……? でも、何だか大きいような……?」
「怪我してる……?」

 そう、オリヴィア達の視線の先に現れたのは侍女達が呟いたように見た目は子供だが、猫にしてはサイズや骨格の作りが大きい、白い毛並みをした獣だった。

(模様的には、豹……? え、でもどうして、豹の子がこんなところにいるの?)

 昔、図鑑で見たことのある姿に戸惑うが――あちこちに、見ていて痛々しい怪我をしているのを見て、オリヴィアはすぐに意識を切り替えた。