厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 ……。


 「無念でございます。あの時私が制止を振り切って陶どのを斬っていれば」


 「言うな、冷泉」


 大寧寺の奥の間。


 薄暗い灯りに照らされながら、御屋形様は微笑を浮かべられた。


 「私は隆房を斬れなかった。その時点で私は負けていたのだ」


 「御屋形様」


 しばらく沈黙の時が流れた。


 「超が付くほどの名門・大内家の当主が、このような仕打ちを受けますとは」


 「それは違う。冷泉。隆房にひどい仕打ちをしたのは、私のほうが先だったのだ。隆房の想いを軽んじ、裏切り続けた結果だ。こうなるのも当然の報いだったのだ」


 「ですが」


 「私は尼子との負け戦に疲れ果て、当主としての任務を全て放棄して遊び呆けた。隆房は何度も警鐘を鳴らし、警告を発し続けてくれていたのに、何も気づいてやれなかった」


 「……」


 「いや、本当は気づいていたのだ。にもかかわらず見て見ぬふりを続けたのだ。隆房の望むような当主であり続けることに疲れ、面倒に感じるあまり全てから逃げていた。そんな逃げてばかりの私に隆房は失望し、見限ったのだ」