厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 宝泉寺から続く山道はいずれ長門国(ながとのくに)へと至り、そこには仙崎(せんざき)という港がある。


 仙崎から船に乗れば九州にだって行けるし、御屋形様の姉上が嫁がれている石見(いわみ)の吉見(よしみ)家を頼ることだってできるだろう。


 海路を用いて、遠くまで逃れてほしい。


 私の手の届かないところまで。


 私がこの手で御屋形様を殺めることができなくなるように。


 たとえそれが、最悪の結末を引き寄せるのだとしても。


 ……しかし運命は非情だった。


 御屋形様を乗せた船は折からの暴風雨に煽られ、再び仙崎の港へ押し戻された。


 海路脱出は失敗。


 「天候が回復するのを待つ間に、陶の軍勢が追いついてしまうでしょう」


 冷泉どのが無念の表情でうつむく。


 長門深川(ふかがわ)にある大寧寺(たいねいじ)に入られた御屋形様は、ついに覚悟を決められたようだ。