厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 夜陰に紛れて、御屋形様は裏山から脱出なさった。


 私は宝泉寺を三方から囲み、あえて背後の裏山だけは包囲を手薄にしていた。


 おそらく冷泉どのがそれに気づき、御屋形様をそこから逃がしてくれるようにと祈りを込めて。


 するとその通りの展開となった。


 時を置いて追討軍を派遣する。


 私は山口に残り陣を張り、報告を待っていた。


 猛り狂う軍勢は、すでに御屋形様の血を見ねば満足しないだろう。


 重臣たちも事がここに及んでは、御屋形様にはご自害いただくより収拾はつかないことを知っている。


 御屋形様には切腹していただかなくてはならない。


 だが。


 謀反というこの世で最も非道な行為に出たこの私にも、まだ憐憫の心が残っている。


 私はこの期に及んでも、御屋形様を殺めることはできなかった。


 かつてはこの命を捨ててもいいほど、お慕い申し上げた方だ。


 できれば逃げ切ってほしい。


 ……謀反の張本人であるこの私がそのようなことを考えているとは、周囲の者に気取られるわけにはいかない。


 心の中でひたすら、御屋形様が無事に落ち延びられることを願っていた。