厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 「私もお供します。このような地に置き去りにされましたら、どのような目に遭わされますか」


 正室の座に収まっていたおさいの方は、御屋形様に懇願した。


 「連れてはいけぬ。ここより別の寺へと逃れ、かくまってもらうのだ」


 「陶の軍勢はたちまちにして私を見つけ出すでしょう。隠れ通せるとは思えませぬ」


 「いざとなれば出家いたせ。いくら隆房でも女までは手にかけまい」


 御屋形様はおさいを落ち着かせようと肩を抱いたが、


 「……陶どのは、心の底より私を憎んでおいでです。決して許されないでしょう」


 死の予感にとらわれたおさいは、涙を流しながら御屋形様に訴えるものの、


 「これから歩む道は、道なき道だ」


 「決して足手まといにはなりませんゆえ」


 「私や義尊に万が一のことがあったとしたら、誰が菩提を弔うのだ?」


 「……!」


 結局おさいは同行を断念し、御屋形様の命令に従い別の寺に非難することとなった。


 御屋形様は義尊さまだけをお連れした。


 嫡男ゆえ捕らえられれば、命を奪われる危険性もあることは十分すぎるほどに存じておられた。