厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 その相良の娘が、なぜここに?


 月の明かりがぼんやりと差し込むこの部屋。


 相良の娘の姿形は、目が暗闇に慣れて来るにつれて輪郭を確かなものとしていった。


 部屋に入る際、その姿を確認した。


 言われてみれば、一介の侍女とは思えない、高貴ないでたち。


 美しい男のみを好まれる御屋形様の寵愛を受ける相良の綺麗な顔を受け継いでいるのか、見目麗しい姫君だ。


 周防の国一番の美貌と評されるのも、あながち大袈裟ではないかも。


 「……で、こんな時間に私に何の用だ」


 「……」


 空蝉は再び俯いたまま、顔を上げようとしない。


 「何か申したらどうだ」


 「……」


 依然として無言のまま。


 「用がないのなら、帰ってはくれぬか。私は早く眠りたいのだから、」


 背を向けて布団に包まろうとした時、


 「陶どの」


 ようやく空蝉が私を呼び止め、名を呼んだ。


 「いかがした」


 「あの……。今宵は私に、伽(とぎ)の相手を」


 「!」


 この部屋がもう少し明るかったならば。


 私の顔色が青ざめたのが、きっとこの空蝉にも手に取るように分かったはず。