「汚い格好で御屋形様の御前に進み出て、世迷言を申し連ねるとは……、もはや正気の沙汰とは思えません」


 相良は私を蔑んだ目で見つめた。


 それが私の怒りに、さらに火をつける。


 「正気の沙汰と思えないのはお前のほうだ、相良」


 「何ですと?」


 「御屋形様に無礼な発言を繰り返し、九州に左遷された分際で。人の居ぬ間に平然と舞い戻っていたとは。さすが厚顔無恥で知られた成り上がり者のすることだ」


 「……いくら陶どのとはいえ、そこまでのおっしゃられよう、この相良許しませぬぞ!」


 「そんなに許せないのなら、私を倒してみたらどうだ」


 私は脇に差したままの刀に手を伸ばした。


 剣の勝負では絶対に勝つ自信はあるのだが……。


 この場、御屋形様のおられる前で刀を抜くのは、反逆の罪に問われる危険性がある。


 「いい加減にいたせ!」


 ついに御屋形様が身を乗り出した。


 このままでは私も相良も引っ込みがつかなくなり、私は実際に刀を抜いてしまっていたかもしれない。