厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

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 「出陣……ですか」


 「大内家が軍事行動を回避している間に、尼子家が備後(現在の広島県東部)にまで調略の手を伸ばしてきた。それゆえ毛利元就から救援要請があった」


 「ついに……」


 あの月山富田城からの撤退の際、後継者だった晴持さまを失われて以来。


 御屋形様は戦を嫌悪され、周辺諸国から出兵要請があっても全く耳をお貸しにならなかった。


 無益な戦は論外であるが、西国最大の大名である大内家の当主として、直接軍を率いて行動しなければならない局面は少なくない。


 にもかかわらず御屋形様は軍務を完全に放棄、そうこうするうちに宿敵・尼子家はすっかり勢いを取り戻し、国境線付近を脅かしつつあった。


 山陰の尼子家と山陽の大内家の緩衝地帯に位置する毛利家は、常に尼子の勢力拡張に脅かされ、幾度となく御屋形様へ援軍を要請していたのだった。


 ついに御屋形様は、重い腰を上げられた。