「御屋形様。元服のお話しは考え直していただけないでしょうか」


 相良の意見は意外なものだった。


 御屋形様にこびへつらい、追従してばかりの相良が、異議を唱えるとは。


 政務室の重臣一同がざわつき始める。


 御屋形様は……、表情にお変わりはないものの、予想外の相良の発言に動揺を隠せない。


 「どういうことだ」


 ようやく御屋形様が口を開いた。


 一同、固唾を飲んで成り行きを見守っている。


 「……亀童丸さまはまだ赤子にございます。元服はいささか、時期尚早かと」


 「亀童丸が大内家の嫡男であることを、今のうちに周辺諸国に示しておくのだ。決して早すぎることはない」


 間もなく四十の大台に乗ろうとしている御屋形様は、ようやく誕生した嫡男の地位固めをなさろうとしているのだ。


 ご自身に万が一のことがあっても、大内家に家督相続の争いなどが起こらないように。


 元服を急がせ、早くから嫡男としての教育を施そうと。