……出生に関して疑惑が渦巻いているにもかかわらず。


 御屋形様は亀童丸さまの嫡男としての地位を、明確なものとなさろうと企まれた。


 「何ですと、元服?」


 政務室がざわついた。


 まだ乳児の亀童丸さまを、御屋形様は慌しく元服させようとなさったのだ。


 元服させて名を与え、同時に朝廷に働きかけて、地位を授けてもらう。


 もちろん嫡男は亀童丸さまであることを、内外に証明するためだ。


 異例なことだった。


 通常男子の元服は、十歳を少し過ぎてから行なうもの。


 にもかかわらずまだ乳幼児の我が子を、急いで元服させるとは。


 その場に居合わせた重臣たちも、さすがに御屋形様のごり押しには違和感を覚えずにはいられなかったようだ。


 だが愛しい我が子の元服に向けて、楽しそうに計画を練られている御屋形様に対し、なかなか異を唱えにくい空気があった。


 するとその時だった。


 「御屋形様、いくら何でも時期尚早にはありませんか」


 異議を申し立てたのは……相良武任(さがら たけとう)。


 御屋形様の寵臣。


 私から御屋形様の寵愛を盗み取った、不倶戴天の敵だった。