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 「限りなく怪しい、としか申せぬが」


 貞子さまは険しい表情で述べられ、


 「だが彩子がそう主張し、御屋形様が信じておられる以上、覆すことは難しい」


 この度御屋形様にはご嫡男・亀童丸さまが誕生され。


 城下には祝賀の雰囲気が満ち溢れているように見える。


 あくまで表向きは、の話だ。


 裏では亀童丸さまの出自を疑う声が確かに存在し、まことしやかに囁かれ続けている。


 実際、彩子には御屋形様以外にも男がいたらしいが、確証がないのだ。


 そんな噂にもかかわらず、御屋形様が彩子の子を自分の子と認めてしまわれた。


 「思い当たる節があるのであろう」


 貞子さまの口調は、終始刺々しい。


 自らの侍女にすぎない彩子が御屋形様と関係を持ち、嫡男を産んでしまったのだから、心穏やかでいられるわけがない。


 しかしあからさまに、不快感を周囲にまき散らすような真似はなさらない。


 非常に自尊心の高い御方であるので、彩子ごときに心を乱すことすら恥であると感じられるのだろう。