……家臣団のみならず。


 周防の国中の者たち、周辺諸国の連中が固唾を飲んで見守る中。


 彩子は御屋形様の嫡男となる男子を産んだ。


 その子は生まれながらに、大内家の後継者としての地位が約束され。


 大内家歴代の当主の幼名である「亀童丸(きどうまる)」の名が与えられた。


 大内家の跡取りとなる男子をもうけた彩子の格は上がり、側室として遇され、「おさいの方」と呼ばれるようになった。


 これにより、晴英さまは養子関係を解消され、無理やり九州の大友家に帰国を余儀なくされた。


 そして正室貞子さまも。


 子を産まぬ正室ゆえ、嫡男をなした側室の前に、次第にその地位を脅かされるようになってしまった。


 大内家の内部が、亀童丸さまのご誕生により大きくうごめき始めていた。


 と、同時に。


 ある噂が水面下で、まことしやかにささやかれ続けていた。


 「亀童丸さまは、御屋形様の御子ではないのではないか」と。