厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~

 ……家臣として、御屋形様にはお世継ぎ誕生を強く望んでいたのに。


 それが現実のものになりそうになると、ひどく動揺している自分に気付いた。


 先ほど冷泉どのとの話の中で言及した通り、「すでに養子に迎えている晴英さまの今後」「正室である貞子さまのお立場」が気がかりなのは間違いないが。


 それ以上に……個人的な嫉妬の嵐が私を責めている。


 今になって御屋形様に御子が生まれるとは。


 今まで何もなかったから、今後はもうそのようなことはないと信じていた。


 なのに四十を間近に控えた、今となって……。


 あんなつまらぬ女に情をかけ、御子をもうけられるとは。


 胸が苦しい。


 悔しい。


 許せない。


 私がこんなに、御屋形様をお慕い申しているのに……!


 私の胸の中に、御屋形様への憎しみの炎が確かに生まれはじめていた。