若い頃の御屋形様は、乗馬を非常に好まれた。


 多忙な政務や合戦の合間を縫って、私を遠出に伴ってくれた。


 「御屋形様、お待ちください」


 「遅いぞ、五郎(ごろう)。この辺りは獰猛な野犬が出るらしいぞ。はぐれたら大変なことになるからな」


 「御屋形様っ!」


 当時の私の未熟な手綱さばきでは、御屋形様に付いていくので精一杯だった。


 愛馬を自分の手足のようにたやすく、流れるようにお操りになる御屋形様。


 追いかけても追いかけても決して追いつくことのできない太陽のように、御屋形様は私にとって眩しく輝かしい存在だった。