「ひかる。さっきの話、本当だよなっ?」

 護孝さんがくるりと私を回転させると、真剣な表情で聞いてきた。
 切望していたものを、ようやく得られると期待している眼差し。

 ここは「どの話?」ととぼける場面じゃない。
 すうと息を吸い込んだ。
 頬が熱いのと、心臓がドキドキするのは無視。

「子供の頃の護孝さん、カッコよくて理知的で。落ちた私を受け止めてくれて……、高校まで好きでした」
 
 小さな声で答える。
 まさか、初恋の君に告白できる日が来ようとは。

「嬉しいけど、複雑だな」

 不機嫌な声。

「え?」

 見上げれば、護孝さんは仏頂面をしている。

「俺は今のひかるを愛してる。だから君にも今の俺を好きになって欲しい」

 彼の瞳が発火するのではないかと思うくらい、熱い。

「好きですよ」
「いつから!」

 照れくさそうに笑う私に、護孝さんは食いつかんばかりに迫ってきた。

 ハンサムなこと。
 有能なこと。
 名家の出身でお金持ち。
 そんなことは関係ない。

 私の庭を認めてくれて、私を焦がれているような目で見つめてくれる人。

 私はこの二つがずっと欲しかった。

 父と伯父様が私の技術を認めてくださっていたのは、今日初めて知ったけど。
 焦がれる瞳は、生まれて初めてもらえたものだ。
 元カレさえ、くれなかった。

 同時に沸き起こる想い。
 私は一生この人に惚れられたい。
 それだけの価値ある女になりたい。

「さっき。自分の伴侶は三ツ森ひかるしかいないって啖呵切ったくれたとき」

 正直言っちゃうと、(ひかる)より、『光』を選ばれた、と愕然としたとき。
 でも、それは内緒。

 ん?
 護孝さんが固まっている。
 なんで。人生初の告白だったのに!

「……お手軽過ぎますか」

 不安になって問えば、護孝さんの呪縛はようやく醒めたようだった。

 はああ、と大きく息を吐き出してぎゅうう、と私に再度しがみつく。

「こんなにお手軽じゃないの、人生で初めてだよ」

 ぼやく護孝さんが可愛くて、もう一度笑ってしまう。