護孝さんに手を差し出され、私もおずおずと手を伸ばす。
 丹念に手入れをしている庭は、月の光に照らされて冴え冴えと美しい。

 ……なのに私は。あんなに愛している庭よりも護孝さんの手が気になって仕方がない。

 大きい手が私の手をすっぽり包んでる。
 鋏や鋸、縄を扱う私の手は筋張ってゴツゴツしている。
 なのに、護孝さんの手のなかではふわふわしたマシュマロみたいに思えてしまう。

 護孝さんはいつもどおり。
 なのに私は。
 私だけが護孝さんのコロンを感じ、声を聞き漏らすまいとする。
 ……一方で、私の手は汗でベタベタではないかとか。
 頭に葉っぱがついてて護孝さんに笑われたらどうしようとか、気になって仕方がない。

「まるで、別の世界に連れてこられてしまったようだ」

 あらためて庭へ意識を向ける。

 爽やかな緑の匂い。
 湿った土の匂い。
 静謐な庭園には葉擦れの音と、自分達が下草を踏み締める音しか聞こえない。

 彼の言葉に同意する。

「そうですね」

 庭は私の喜び。
 私を癒やして、パワーを与えてくれる。

 なのに護孝さんは、そんな私にとっての聖域のなかでさえ、私をざわつかせる。

「ひいてる?」

 穏やかな声に地面を見ていた目を上げる。 

「え?」

 護孝が月を見上げていた。

「俺がぐいぐい来るから」

 ひいてはいないけど。

「……なんで、護孝さんにこんなに好かれるのか、わからなくて……」

 護孝さんの気持ちに偽りを感じている訳ではない。でも。

 見上げた彼は真剣な瞳をしていた。

「金目当てでもなく、ひかるの父上目当てでもないから?」 

「……はい」

 護孝の言葉に、胸がぎゅっと掴まれたように痛くなる。

「小さい頃から、政略結婚するものだと育てられてきてね」
「はい……?」

 なにを言い出すのかな。