庭園の管理人さんっ? ……じゃないよね。
 いや、若くてイケメンの管理人さんでもいいと思う。
 でも、作業着ではなくオーダーのスリーピース着てるんだもの。
 え。まさか、この地所のオーナーとかっ!

『見合いです、って顔すればバレないわよ』

 知恵を貸してくれた従姉妹の顔とセリフが思い浮かぶ。
 誰にしろ、立ち入った処に入ったことをとがめられてしまうのかもしれない。

 イケメンさんににらまれてしまった。
 暗雲たなびいてるよねっ?
 どうしよう! 
 あああ。玲奈ちゃん、振袖が免罪符にならなかったよー。

 「貴女は」

 男が発した強い声に、体がビリっと震える。
 
「多賀見 玲奈さんですか」 

 え。
 なんで、この人は彼女の名前を知ってるの?

 誤魔化しちゃおうか。
 ちら、と彼を見つめたら厳しい目で私をにらんでる。これは、言い逃れ出来そうもない。

「違います、私は! ……みつ」

 思いもよらない誰何に、名乗ろうと口をひらきかけ、口籠もった。
 三ツ森と名乗ってたら、もっとまずそうな気がする。 

 ここは、父のライバルと目されている人が手掛けた庭園なのだ。
 敵情視察と思われても仕方がない。
 何度か口を開いては閉じを繰り返して。

「貴女の名前は?」
「………………ひかる、です」 

 名前だけ、ぼそりと呟いた。
 瞬間、男の目が見開かれたのがわかった。