響は謙太郎を唆す


謙太郎は、大きな右手で首の後ろを揉み、首を横に倒して、いかにもダルそうにため息をついた。

それから、
(視線?)
と、ふいに後ろを向く。

射抜くような視線。

桜の並木の外れ。
謙太郎から3メートルほどの距離。

響と真っ直ぐに目があった。

謙太郎は思わずポケットに入れていた手を出して、じっと見返した。

強い視線は謙太郎が見返しても揺るがない。
謙太郎はその女生徒が、自分に対して良く思っていないのはすぐに感じていた。

それでも、そのまま。
思わず数歩、歩いて近づいた。

彼女は目線をそらさない。

とうとう謙太郎は、その子の目の前まできて、見下ろした。

背が肩のあたりまでしかない。

185センチのガタイの良い謙太郎から想像するに、150センチ台か、小柄だと思った。

でも彼女は、一歩も引かなかった。

謙太郎を下から見上げるようにじっと見たまま、口をひき結んでいた。