響は謙太郎を唆す


「車は売った。今さっき。知り合いのディーラーに電話して、鍵つきのまま駅に停めてあるから今夜中に引き取ってくれる」
「⋯⋯ ⁈」
「響の嫌な事はしたくない。響が乗りたくない車はいらない、なんて⋯⋯ 」

と謙太郎は、ちょっと笑った。

「ははっ、カッコつけたところで、まあ、これからの学費にあてる訳なんだけどな」

謙太郎が黙ったら、波の音だけ聞こえる。
一定のリズム。
広くて暗い夜空、月、広がる夜の海。
響は真上の空を見ていても、謙太郎がこちらを見ている事を痛いほど感じていた。

『沙夜』って親しく呼んでたくせに。
一緒に住んでたくせに。

「なんで」

響は、考えてる事がそのまま口に出てきた。
響にしてはあまりない事だった。
ベラベラ喋るほうじゃないし、割と考えて短く簡潔に話すタイプだと思っていたけど、感情に押し出されて言葉が口にでる。