さっき、謙太郎は家に電話した。
父が出て弁護士との話を簡単に聞き、母に代わってもらった。
電話口で母は「ちょっと間違っただけなのに」と強情に言っていたが、謙太郎が家を出る事、財産も一切いらない事を伝えると、息を吸い込んで何かを言いそうだった。
その前に謙太郎は急いで口を開いた。
「よかったね。俺は唆されてこうなったんじゃない。あなたの非常識さが俺の背中を押したんだ。俺の人生の決意を決定的に決めたのは、結局あなたなんだ」
と言ったら、黙っていた。
結局、こんな形で前に進んだんだな、と思った。
「響、俺、何もなくなる」
謙太郎が、自分に言うように言ったら、響は、
「車があるじゃない」
と、珍しく怒った声で言った。
謙太郎は響の顔を見た。
響は仰向けで、両腕を開いて寝たまま空を見ている。
謙太郎に顔を向けず、固い表情だったので、謙太郎はドキッとした。
響の指は砂に半分ほど埋まっていて、親指と人差し指で、無意識なのか、砂をつまんで擦っていた。
謙太郎は心がキュッとした。
響の心が痛かった。


