響は謙太郎を唆す


しばらくして謙太郎は、砂が舞わないように気を付けながら響の隣に座った。
手に持っていた響の靴を、響と反対側で砂を払って丁寧に横に並べて置いた。

一定のリズムで波の音だけが聞こえ、静かだった。

「寒くないか?」

優しい声だ。
響を気遣う。
響に話しかける。

また、感情が込み上げてきて涙がじわじわ溜まる。

謙太郎はチラッと響を見て、ポケットのハンカチを出してそっと顔を押さえてくれた。
響の手は砂の中。
ハンカチは、やっぱりアイロンがきちんとあたっていて、瞬間、謙太郎のお母さんを思い出す。

謙太郎が穏やかに話始めた。

「親に電話した。俺、家を出るわ」