響は謙太郎を唆す



「痛いっっっ!」

と、紗代子が謙太郎の胸に倒れ込んだ。

右腕が包帯でグルグル巻きで、そこを青い顔をして押さえている。

(あー、そうか、自作のやけど)

と響は冷めた気持ちで思い出した。

ぼんやりして、とっさに何の行動出来ず、言葉も出なくて、ただ紗代子を見ながら立っていた。

でも、

謙太郎は紗代子をかばってる⋯⋯ 。
長い両腕で親切に抱きかかえて⋯⋯ 。

「沙夜、火傷してるらしい」

と言った。

私を抱く腕で、紗代子をかばった⋯⋯ 。

その時、車のクラクションが派手に鳴って、謙太郎の停めた車が邪魔で道が通れないと音がした。
響の家の前は一方通行になっていて、謙太郎の車も、後ろの車も大きな車だった。
謙太郎は響をふりむきながら、

「響、待ってろ。もどってくるから!」

と、急いで車に向かった。