響は謙太郎を唆す


謙太郎達は、皆に取り囲まれながら会場に入っていった。
広間にいた人も皆入っていった。

しばらくは他の客が来て、受付をして、会場に入っていくのが続き、時間になったのか、扉が恭しく閉められた。
嘘みたいに、広間に人気がなくなり、受付の人達がちょっと気を抜いて、机の上を片付けていた。
扉の中からマイクを通した司会の声がする。
来賓の挨拶だろうか、時折笑い声や拍手や、華やかな空気が洩れ聞こえ、その中に決して入れない響は、冷たい疎外感とうそ寒い気持ちがした。

知らなくて良い事を知ったからだ。
でも、知ってしまった。

脱力して呆然と座っていたが、会場は乾杯も終わり、しばらくして、そろそろトイレに立ってくる客が出てきたりする。

紗代子に出会わない前に帰ろう。
逃げ出すなんて、情けない。

扉のあたりに、チラッと着物が見えたので、あわてて壁際を走ってトイレの個室に逃げ込んだ。
すぐに、2、3人の女性客が、お手洗いに入ってきた声がした。

話が聞こえてくる。