響は謙太郎を唆す


あちらの世界には、輝いた未来が準備されて待っている。
広い世界が広がり先祖代々の文化も、ただ、乗っていれば、すべて謙太郎の持って生まれた彼のものだ。

でも、こっちは。

何もない。
ただの、何も持っていない響1人が、その人生をかけて応援するだけだ。
何とか謙太郎が何年もかけて、一人前になっても、それすら約束されていない、狭い世界にポツンとようやく生活する。

その違いは、誰が見てもわかる。

謙太郎にだって分かってる。

響にだって嫌と言うほどわかる。
紗代子に比べて自分が、あまりにも何も持っていない⋯⋯ 財力も人脈も、そして培って積み上げてきた彼女たちの教養というか文化。話し方、生き方、考え方、先祖代々の深み。

響は、自分がペラペラの薄い紙切れ一枚みたいに感じた。

謙太郎をただ好きでいる。
何も出来ず、だから勉強して、もどかしくて、でもじくじくと紗代子を思い出す。

日が過ぎる⋯⋯ 。

季節がいつの間にか変わっていた。