響は謙太郎を唆す



「家を⋯⋯ 」

と言いかけて、謙太郎は言葉につまった。

響がじっと謙太郎の顔を見ていたら、謙太郎も響を見て困ったように笑って、

「家を、出ないといけない?」

と、なぜか疑問形で話した。

笑って軽い調子で言った謙太郎に、かえって揺れる気持ちや、迷いや、怖さをダイレクトに感じた。

響は、

「お医者さんにならないから?」

と聞いた。

「そうだな。小さい時から当然だと敷かれたレールで、降りる事が多分周りも俺自身もわからないんだ。でも、このまま俺は乗っていたら、自分の気持ちだけ置き去りになる。『俺は違う』って、その気持ちだけが大きくなって、どうにもならない」
「違う行き先の電車に、乗り換えさせてくれないの?」
「鉄格子付きの特別車に乗ってるからな」