謙太郎は学校の帰り塾に向った。
響の連絡が『会いたい』と言っている。
会える自分になれるよう、とりあえず一歩でも進みたかった。
塾で取っている科目を変更してもらう。
もう理系はいらない、と一歩だけ覚悟を決めた。
それでもグズグズしている自分だ。
親に話している。
毎日。毎日。
父親にも初めて「医者にはならないつもりだ」と言った。
父親は「先祖を遡っても知っている限り男子は全員医者になった」と言う。
代々、医者をしている家だから。
「そんな、揺れる日もある。だが、最後には医者になるさ。内藤家の子だからね」
と、父親はいかにも分かった風に言った。
深い愛情を持って、思春期の息子の悩みに耳を傾ける理解ある父親の表情。
道理の分からぬ若者に対する年長者の導き。
その返事は詰られるよりつらかった。
怒られたり突き離された方がまだマシだと思う。


