響は謙太郎を唆す


桜の木から、ひんやりと、花の間を通り抜けてきた春の風が吹いて髪を揺らす。

彼女の髪が、耳の横で揺れた。

毛先に少しクセがある茶色がかった髪は背中の真ん中ぐらいまである。

白い頰。
高すぎなくてちょうど良い鼻筋。
柔らかそうなほどよい唇。

頭の形が綺麗に丸くて体つきは小柄ながら均整がとれている。

甘さを感じる容姿。
砂糖菓子のような。
全体にパステル調の雰囲気でふわふわと髪が風に揺れる⋯⋯ 。

しかしその容姿の甘さとは反対に、大きな茶色味の目は、強い意志と強い非難を真っ直ぐに謙太郎に向けていている。

その子から目が離せないまま、謙太郎はドクンと落ち着かない気持ちになった。

なぜ、こんな通りすがりの子に、強くはっきりと否定されているのか。

謙太郎は思わず、

「何のぞいてんの?」

と低い声で聞いた。