「こちらで少々お待ちください」


吉田と名乗った司会進行役のすらりとした女性は、腕時計で時間を確認すると薄い笑顔を浮かべて言った。

言われた通り示された椅子に俺は浅く腰かける。

ゆったりと贅沢な造りの椅子なのに浅く座るのは、さっき着付けたばかりの羽織着物を着崩すわけにはいかないからだ。


初冬の時期に合わせたやや落ち着いた茶色の揃えは、いつも通り肌に心地よい素材で、

「今日はたくさんの方に見られるんだから」

と、いつもより気合を入れて気心知れた呉服屋の若店主、(あきら)が選んだ。


茶色の羽織にはちょっと遊びすぎじゃないか? と素人なら選ばなそうな真っ赤な羽織紐を選んで晃は笑っていた。

「今時、若い男に着付けて見せびらかせる機会なんて滅多に無いんだから、遊ばせてくれ」

オレはオマエのオモチャか?

苦情のように言っても、実際、その選択に間違いはないから文句はない。