日本という国にうまれたからには、毎年乗りこえなければならないやっかいごとがあるのです。そういう宿命なの。



────なんのことかって? それはね……。





「うう、なんで今日に限って忘れちゃうの……!」





私のばか、大ばか。

この時期にだけは、忘れてはいけなかった。



玄関先に置き忘れてきてしまった、水玉模様の折りたたみ傘を思い浮かべてうなだれる、最悪だ……。




たとえ、天気予報で晴れだって言っていたとしても、この時期には関係なく持ち歩くべき必需品なのに。




そう、それが日本の梅雨ってもの。
日本人たるもの、宿命の季節なのです。



湿気でじめじめするし、くせっ毛はいつも以上にバクハツするし、雨はきゅうに降ってくるし、いいことない。




────と、嘆いたところで、ぽつりぽつりと降りはじめた雨粒が都合よく止まってくれるわけもなく。

むしろ、雨足が次第に強くなってくる。





「ひゃ……っ!」





ザザア、とまたたくまに本降りになった雨。
体を守るすべもなく、雨粒を全身で受けとめる。



と、とにかく早く帰らなきゃ……!




今は、放課後、帰り道。



日に日に仲良くなった小雪ちゃんと、学校の帰り、分かれ道になるところまで一緒に帰るようになって、もうしばらく経つ。おまけに、まやくんも一緒。



今日も、ついさっき、ふたりと別れたところで────。





「……!」





今はそんなことをのんきに考えている場合じゃなかった……!

はやく帰らないと、びしょ濡れになっちゃう。
もう、手遅れかもしれないけど……っ。



どんどん激しくなる雨のなか、たっと駆け出して家まで一直線に向かったのだった。