少し古いマンションから、15分。の道を、ゆっくりゆっくり30分。

綺麗な白い校舎が見えてくる。私が入学する少し前に改装工事が行われたらしい。

校門には既に誰もいなかった。慎重に、門をくぐり校舎に入った。今はもうこの一連の流れにも慣れてしまったが、初めは凄く緊張した。なるべく、というか絶対誰にも会いたくないから、足音をさせず息も殺して私の教室に向かう。

他の普通学級から少し離れた、教室。
1組、2組と表記されるこの学校では恐らく唯一の、A組。

生徒は私1人だけ。ここは所謂、特別支援学級だ。

この教室の生徒は、私のように障害や病気を持つ人とか元不登校生徒とか。担任の先生はいないけど、大体は教育相談員の里帆先生がいる。


去年までは3年生が1人居たけど、卒業して今は私だけ。1年生にもここに通うべき子は居ないみたいで、優秀だ。

教室のドアを開けると、そこには案の定里帆先生がいた。


“おはよう、サラさん ”

“ おはようございます、里帆先生”


お互い手話で挨拶する。里帆先生は、手話を全く知らなかったのに、私が来るからと覚えたらしい。まだ下手くそだけど。

ふんわり笑う里帆先生は、私がお母さん以外に心を開ける人だ。先生の目の前に腰掛けると、私専用のホワイトボードに先生が何かを書いて見せてきた。


“ 今日は少し遅かったね、何かあったの?”


毎日、先生は学校に来ては会話を始める。好きな本とか、話題はそれぞれ。だけど、先生との話は楽しい。


“食事に時間がかかってしまいました。サンドイッチだったんです。 ”


返事を書くと、先生はまた、ふんわり笑った。


“ そう、美味しかったのね。今日も本を読むの?”

“ はい。好きな作家の方の新作を買ったので。後、勉強を少し。”