リビングには既に誰もいなくて、冷たい空気だけが残っていた。

お母さんと2人暮らしのこの家にとっては少し大きめのテーブルの上には、几帳面なお母さんの置き手紙。その側にはラップがかかった、まだ暖かさの残るサンドイッチ。

「サラへ。

今日も朝早くから会議があるので先に出ます。朝ごはんのサンドイッチ、置いておくね。
夜も遅くなりそうなので、冷蔵庫のオムライスを暖めて食べてください。

いつもごめんね。勉強、頑張って。

お母さんより。」

会議があったのか。
私も料理は少しできるし、時間がないなら無理しなくていいのに。

こんな誰もいない日も珍しくない。
むしろ最近はその方が多い。

お母さんは私がまだ幼い頃に父を病気で亡くした。父との記憶はほとんどないけど、私は父に似ていると、お母さんはよく言う。
父が亡くなった日から、お母さんは私のことを女で一つで育ててくれた。朝から晩まで仕事をこなし、母娘の時間こそ少ないが、そんなお母さんを誰より尊敬していた。

どんなときも笑顔を絶やさない、強いお母さんだ。

お母さんお手製のサンドイッチを口に含むと、甘い茹で玉子の味が広がった。母の味、というのだろうか。どこか安心する、暖かい味だった。

私は朝をのんびりと過ごす。学校はほとんど遅刻していく。
というのも、時間通りに行くと人が多すぎるのだ。後、なるべく同じ学校の生徒には会いたくない。先生にも許可をもらって、特別に少し遅れて登校することにしている。

重い鞄を肩にかけて靴を履いた。
思ったより食事に時間をかけてしまったみたいだ。時計は8時過ぎを指していた。

ドアを開けると同時に、冷たい秋の風が顔にかかる。
いつもと同じ秋の朝、また同じ日々の始まりを信じて、ドアをそっと閉じた。


それが、サラにとって人生を変える一日の始まりだとも知らずに。