もうこれ以上、許さない

「…いえ、すみません。
好きな芸能人に似てたんで、本人かと思ってびっくりしちゃって」

「え、そんなに!?
誰だろ、なんて人っ?」

「いえもう引退してるし、絶対知らないマイナーな人なんでっ」
とっさについた嘘に突っ込まれ、慌てて誤魔化す。


そう、風人は4年前…
階段から落ちるあたしをかばって、記憶喪失になったのだ。

だから、あたしの事は覚えてない。


それは、すごく切ない事だけど…
ほっとする事でもあって。

元気そうな風人に、相変わらずな風人に…
そして、ほんとはずっと会いたかった風人を前に…
泣きそうになるのを必死に我慢しながら、なんとか受付を終わらせた。


だけど見送った途端、ぼろりと涙がこぼれる。

「っっ…
あーも仕事仕事!」

いつお客様が来るかわからないから、今は泣くわけにはいかない。
パンパン!と両頬に喝を入れて切り替えると、さっそく風人の洗濯物の処理を始めた。


すると。
さっきはそれどころじゃなくて、うわのそらで受け付けたから気付かなかったけど…

「お前もかい!」
Yシャツ11枚に思わず突っ込む。


まったく、風人らしいや…

そう思うとまた泣けてくる。


風人と出会ったのは、約6年前…
大学1年の夏休みだった。