相変わらず思わせぶりな風人に。
そうやってヒョイと心の垣根を超えてくる風人に。
やきもきしながら、その場をやり過ごすと…
ため息とともに項垂れた。

2週間に1度くらいなら、なんとかなると思ったけど…
ダメだ、全然なんとかなる気がしない。


もう飲まなきゃやってらんなくて…
あたしはその夜もまた、Cyclamenを訪れた。


「あれ月奈ちゃん、待ち合わせ?」

「ううん、ちょっと気を紛らわせたくて…」

「珍しいな、あの黒歴史より撃沈する事?」

「もーお、それ言わないで〜」
両手で耳をぱたぱた塞ぐ。


あの黒歴史とは…
あたしがお店を、1人で任されるようになった頃の事。

スーパーのテナントとして、そこに隣接してるうちの店は…
閉店時、決められた時間内に締め作業を終わらせないといけない。

なのに慣れない1人作業と閉店間際の行列で、タグ付けが全然終わらなくて。
次の日休みだったあたしは、代わりに入るスタッフが困らないように…
夜中に忍び込んで作業してしまったのだ。
そう、セキュリティが作動するとも知らずに…

おかげで警察沙汰になり、始末書もんになり、それはそれは落ち込んだものだった。