「澪ちゃん」

「本当は聞きたいです。でも、好奇心で雛ちゃんを泣かせたくなくて」


まだ瞳を潤ませている雛子の頭を撫でながら、澪は苦笑した。


「聞くべきよ?」

「いいんです」


澪は自分が浅はかだったと後悔していた。

茜は話そうと、話さなければならないと思っているようだったが、だからこそ軽々しく、ただの好奇心で聞いていい事では無かったのだ。


そのせいで、雛子をこんなにまで泣かせてしまった。


「甘いわねー。でも澪ちゃんがそういうなら、何も言わないわ」


茜は急に興が削がれたように無表情になり、立ち上がって居間を出て行ってしまった。


「ねー、澪ちゃん」


居間を出て行く時、茜はふと思い出したように振り向いた。


「その甘さ…足元掬うかもね」


それだけ言い残して、茜はその場から去ってしまった。


「茜さん…?」


茜の残した言葉が、やけに胸に刺さる。

追いかけてその言葉の意味を問い糾したかった。

だが雛子にしがみつかれていて、追う事が出来ない。

今の弱々しい雛子を振り払うのは、到底澪には出来なかった。


「大和くん、どういう意味だろう?」

「あ…あの、俺には何とも…い、言えないっす」


仕方なく、モヤモヤを大和にぶつけてみたのだが、大和がガチガチに緊張する原因まで加わって余計にモヤモヤが増すだけだった。