呪イノ少女、鬼ノ少女

結局、九音は見送りに出て来ることも無く、澪は一人珠祭の屋敷を後にした。


「九音さん、大丈夫なのかな…」


あんな状態の九音を一人残して来た澪の表情は浮かない。

色々と、特に性格の面で大いに困った人だが、それでもやはり具合を悪そうにされると心配になってしまうものだ。

出来れば残って、看病とまでは行かなくても、白湯ぐらいは用意してやることも出来たろう。


が、それをも九音は望まなかったのだから仕方が無い。


「はぁ…」


遠い山の瀬に沈もうとしている西日に目を細め、澪は短く溜息をつく。

世界は鮮やかな朱に支配され、もうすぐに夜の帳の深い藍に覆われようとしていた。


「…急ごう」


もう屋敷を出てしまったのだから、いちいち気にしていても仕方がない。

雛子達だって夕飯を用意して待ってくれているのだ。

それにこの辺りは街灯も無いから、暗くなっては満足に歩くことも出来ない。


澪は、後ろ髪を引く思いを断ち切るように歩調を早めた。


と、その時だった。


「…?」


突然『何か』が、視界の端に映り込んのだ。


ぎょっとして、思わずそっちを振り返ったが、そこには誰もいない。


「…気のせ…いっ!?」


気のせい、と言おうとして、また視界の端を何かが横切った。


だが、今度は少しはその『何か』の形を捉えた。


ゆらゆらと陽炎のように揺らめく、白い何かだった。


しかしそちらを振り向いても、やはりもう何もいない。